シリコーンは自動車、電気・電子、建築、化学、化粧品など多岐にわたる産業分野、用途で利用されており、私たちの生活や経済活動に欠かすことのできない素材です。ELASTOSIL® LRシリーズは、2液付加型熱硬化性液状シリコーンゴムコンパウンドであり、せん断が印加された際に、粘度が低下するという優れた特徴を有しています。せん断力の強弱により粘度を調整できるため、成型時の製品のバリを極めて少なくすることが可能です。また、射出成型機による連続自動成型が可能であるため、作業効率が飛躍的に向上します。 |
一般的に、液状シリコーンゴムコンパウンドは、射出成型機で成型(一次硬化)された後、低分子環状シロキサンの除去のため、ギヤーオーブンで加熱(二次硬化)されます。二次硬化には時間と費用がかかるため、成型加工メーカーにとっては、省略したい工程です。しかし、低分子環状シロキサンはシリコーンゴム部品から揮発し、電子機器の接点障害を引き起こすことが報告されています。また、8員環状シロキサン(D4)及び12員環状シロキサン(D6)は環境中での難分解性や生物蓄積性が懸念され、化審法の監視化学物質となっています。そのため、食品接触や医療用途での使用においては、低分子環状シロキサンを除去するという目的で、二次硬化は必要不可欠な工程となっています。 このように、食品接触・医療・自動車といった用途では、低分子環状シロキサンを所定の水準以下に削減することが推奨されており、重量減少率の低いシリコーンゴムの供給が待ち望まれていました。 |
重 量 減 少 率 % |
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硬度 Shore A 図1. 重量減少率(200℃/4時間)の測定結果 |
ELASTOSIL® LR 5040シリーズは30,40,45,50,60,70硬度の製品があり、食品接触・医療・自動車といった用途で使用いただける材料です。ELASTOSIL® LR 5040は二次硬化を実施なしで、BfR XV、FDA 21 CFR、DIN EN 1400、DIN EN 14350、USP class VI、EP 3.1.9の試験を実施しています。ご使用にあたり、安全性は各ユーザーの所定の加工条件の下、成型加工品において十分な確認が必要です。また、安全性の他に、低圧縮永久歪みを求められる用途や、高温化で長時間使用される用途では二次硬化を推奨いたします。
ELASTOSIL® LR 5040シリーズの一次硬化後の常態物性を示します。
表1. ELASTOSIL® LR 5040シリーズの物性表
項目 | 規格 | 単位 | ELASTOSIL® LR 5040/30 |
ELASTOSIL® LR 5040/40 |
ELASTOSIL® LR 5040/45 |
粘度 | DIN EN ISO 3219 | Pa・s | 800 | 1200 | 1000 |
密度 | ISO 1183-1 A | g/cm3 | 1.13 | 1.13 | 1.12 |
硬さ Shore A | ISO 7619-1 | - | 30 | 40 | 45 |
引張強さ | ISO 37 Type 1 | MPa | 8.5 | 8.5 | 8.5 |
伸び | ISO 37 Type 1 | % | 780 | 570 | 530 |
引裂強さ | ASTM D 624 B | N/mm | 32 | 38 | 38 |
引裂強さ | DIN ISO 34-1 | N/mm | 12 | 11 | 11 |
項目 | 規格 | 単位 | ELASTOSIL® LR 5040/50 |
ELASTOSIL® LR 5040/60 |
ELASTOSIL® LR 5040/70 |
粘度 | DIN EN ISO 3219 | Pa・s | 1000 | 1400 | 2000 |
密度 | ISO 1183-1 A | g/cm3 | 1.13 | 1.14 | 1.14 |
硬さ Shore A | ISO 7619-1 | - | 50 | 60 | 70 |
引張強さ | ISO 37 Type 1 | MPa | 9.0 | 8.5 | 9.0 |
伸び | ISO 37 Type 1 | % | 460 | 450 | 350 |
引裂強さ | ASTM D 624 B | N/mm | 40 | 44 | 36 |
引裂強さ | DIN ISO 34-1 | N/mm | 12 | 11 | 11 |
Wacker社の汎用LSRであるELASTOSIL® LR 3003シリーズは二次硬化することで良好な機械特性が発現しますが、ELASTOSIL® LR 5040シリーズは二次硬化すること無く、優れた機械特性を示します。特に、引裂き強さは大きく改良されています。硬さの規格は±3 Shore Aとし、より高い品質の安定性を実現しています(従来品は±5 Shore A)。また、一次硬化後の線収縮率は他のELASTOSIL® LR 3xxxシリーズと同程度ですが、二次硬化においては低分子環状シロキサンの揮発が少ないため、線収縮率は小さくなります。
図2. ELASTOSIL® 5040シリーズとELASTOSIL® 3003シリーズの物性比較
ELASTOSIL® LR 5040シリーズの硬化物は、二次硬化すること無く、各種の安全基準を満たすことが可能です。従来の汎用LSRと違い、二次硬化が省略可能であるため、生産工程の短縮を実現します。食品接触や医療といった要求の厳しい用途において、高品質、高性能のゴム成型加工品を効率的に製造することに貢献します。