インドの電力供給量改善にWacker Chemie AG製のPOWERSIL®(シリコーンゴム)が貢献した事例について、本稿にてご紹介致します。 |
インドの経済力はそのインフラの整備を上回る速度で成長しています。特にエネルギー供給網は、2012年夏の大規模停電に代表されるようにとても経済成長に追いつけていません。そうした中、WACKER社のシリコーンゴム製碍子が将来のインドの電力網の備えの一助になっています。
2012年7月30日のニューデリー: 地下鉄は駅で立ち往生し、電話は不通となり、信号が停止し、インドの首都交通網はマヒしました。その夜、ニューデリーは、インド亜大陸の大部分と同様に暗闇に包まれました。エアコンが止まり、熱帯の暑さに耐えらず、もはや何も機能しませんでした。大規模な停電がインドを機能不全にしました。電力網は、まるでドミノ倒しのように、インドの北部、北東部、東部の28州のうち20の州で崩壊し、インドの人口の半数以上の6億5千万人が、この歴史的な大規模停電の影響を受けました。
専門家にとって、停電は決して驚くべきことではありませんでした。なぜならインドの電力網は、かなり以前から、急速に増加する需要に追いつけていなかったからです。ドイツ貿易・投資振興機関によると1999年から2009年の11年間に電力消費は約50パーセント増加しました。インド経済の奇跡的な成長で電力供給が限界となり、電力の節約が常に必要となっています。このため、いわゆる”電力の休日”がインドの多くの地域で義務化されています。 この点について、WACKER社グローバルプロダクトマネージャーのDr.Jens Lambrechは次のように述べています。例えば、週に2日、会社は電力を消費しない義務がありますが、この義務的な電力の休日はこの新興経済国に著しい打撃を与えています。さらに、大抵は短いですが数が多い小規模な停電は、工業生産と機械にとっては日々耐久試験を行っているようなものです。 |
200 ギガワットの発電能力 |
電力供給がはるかに不十分である事を数字が明らかに示しています。インドでは発電能力200ギガワットの発電所がいくつか稼働しています。これは一人当たり170ワットの電力を使用できる計算ですが、ドイツではこの7倍の電力を使用することが可能です。さらに、3億人のインドの人々は全く電力を使用できない状況にあります。地方では、電気は高価で不法に盗まれています。この送電網のアンバランスが、より停電を引き起こしやすくしています。 |
Deccan社製碍子の1,200 キロボルト 適用試験 |
インド政府は、増大する電力需要を賄うために電力網を拡大するという野心的な計画を進めています。Deccan Enterprises社の共同代表取締役のVikas Jalan氏は、今後5年から7年で、さらに10万メガワットの発電能力の増強が求められると説明しています。送電もまたそれに応じて拡大する必要があります。また、ゴム加工の40年に及ぶ伝統を有しているDeccan社は送電のための複合碍子のシリコーンゴムを数年間にわたり開発、製造しており、インドにおいてマーケットリーダーとなっています。電気はインド全土で必要とされていますが、主に沿岸地域とインドの北東部や東部で発電されているため、長距離の送電が必要です。そこで低損失の送電手段として、765~1,200キロボルトの新たな超高圧送電線が特に求められています。
碍子は、送配電のカギとなるもので、電線が設置される場所ならどこにでも見ることができます。シリコーン複合碍子は、現在インドで特に求められています。シリコーン複合碍子は電気絶縁性強化グラスファイバーの芯材と耐候性に優れるシリコーンゴム製の外被で構成されています。 伝統的な磁器碍子と比べて、シリコーンゴム製の複合碍子は非常に容易にかつ速く製造することができ、長い目で見て費用対効果に優れます。 その理由は、シリコーンゴム製の碍子の外被は射出成形によって製造されるためです。また、複雑で製造するのに時間を要するセラミック部材と同様に燃えません。この成形方法により、精度の高い成型品を非常に高い生産性で得ることが可能です。 |
|
圧力2,000 バールでの成形 |
Klöckner DESMA Elastomertechnik社 営業部長のHarald Schmid氏は、射出成型機はシリコーンの材料を最大2,000 バールの圧力で金型に圧入するため、金型の設計と製造には、特に広範囲にわたる製造知識を必要とすると説明しています。 ドイツの射出成型機メーカーKlöckner DESMA社は、現在インドのマーケットリーダーでもあります。インド工場では、過去4年にわたり重量が数トンもの金型の設計と製造をしています。それらの金型は 最大400もの精密部品から成り、とても精密に作られなければならず、高い射出圧に耐えられなければなりません。この3次元の金型によって、碍子に特徴的なひだ状の外被を得る事ができます。その構造は、付着した汚れによって生じる放電から部材を守ります。疎水性(撥水性)のシリコーン表面は、雨粒が簡単に転がり落ち、磁器碍子で起こりやすい水の導電膜を形成しにくいため、フラッシュオーバーのリスクを低減します。 |
コルカタ発のシリコーン |
1998年、WACKER社とインドのMetroark社はシリコーンの製造と販売のための合弁会社Wacker Metroark Chemicals Pvt.社を設立しました。それ以来今日まで、その会社はコルカタ近郊で電気部材用のPOWERSIL®シリコーンを製造しています。WACKER社の専門家Lambrecht氏は、この会社の設立時から加わっており、以後、この化学会社はインドで拡大を始めました。Deccan社との協力はその時に遡ります。Deccan社のVikas Jalans氏は、次のように説明しています。インドの電力会社Power Grid社の 1,200キロボルト試験場のための新しいシリコーンゴム碍子は長尺の設計にしなければなりませんでした。その理由は碍子の長さが送電電圧に直接依存するためです(ほぼ100キロボルトにつき1メートル)。電気的、機械的なパラメーターを最適に調整するため、様々なモデル計算とシミュレーションを行いました。2011年6月に最終製品を納入するための設計のすべてのプロセスに2年を要しました。 WACKER社の協力と高電圧用途のための技術チームの幅広い専門知識のお蔭で、継続的にシリコーン碍子を顧客の要求に合わせて改良することができました。最終的にDeccan社は長さがほぼ10メートルものシリコーン複合碍子を扱っています。また、そのような大きな碍子は 射出成形機で容易には製造することができず、ステップ成形によって段階的に作らなければなりません。このプロセス検討は成功し、この巨大な碍子は2012年2月に試験に合格しました。1,200キロボルト高電圧の送電線のための碍子は、インドではじめてDeccan社によって設計され、製造されました。 |
送電網における1,200キロボルトDeccan社製碍子 |
軽量で非常に頑丈 |
シリコーンは、軽量という碍子のような部材にとても重要なもう一つの性能を提供します。最終製品は、従来型の磁器製碍子のわずか10分の1の重さしかありません。さらに、シリコーンゴムは、セラミック製の競合品と比べ機械強度に関してまったく劣りません。シリコーン製碍子は軽量で、非常に頑丈で、自動車200台分の重量を支えることができます。加えて、この素材はとても弾力性があり、40年の長期安定性に対する要求を満たします。シリコーンは伸縮素材であるため、もろい磁器製の碍子よりも破壊されにくいです。 マッキンゼー社の試算によれば、2012年の夏のような停電を避けるために、インドは発電量を現在の約200ギガワットから2017年には2倍の約400ギガワットにしなければなりません。これはとても大きな事業で、新たな発電所と送電のために数千キロメートルにわたる高電圧送電線を建設しなければなりません。鉄塔1基当たり少なくとも6個の大量のシリコーン製碍子が必要となります。2基の鉄塔の間隔は最大500メートルなので、100キロメートルの送電線では、最大1,200もの膨大な数の碍子が必要となります。 |
社会産業の血液 |
送電線網は複合碍子だけでなく、送電にはシリコーンゴムからなるケーブルアクセサリーのような部品も必要です。しかしながら、インド経済は、送電線網が安定して機能し、全土をカバーするようになった時にはじめて成長速度を上げることができます。 電気は、インドのような急速に近代化する社会にとって血液です。それ無しでは、今日のインドにおいても、全てが停止してしまうのです。 |
インドの電力事情: |
・インドの発電所の発電能力は、現在約200ギガワットです。この、3分の2は火力発電所(特に石炭)で、20パーセントは 水力発電所、12パーセントが他の再生可能エネルギー、2パーセントが原子力発電所です。 大きく上回りました。 |
POWERSIL® |
POWERSIL® シリーズはWACKER社の送配電用シリコーンゴム製品です。 |
撥水性能、耐トラッキング性、耐アーク性、良好な耐UV性が長期持続するゴム製品で、厳しい気候条件下、例えば、沿岸地域や砂漠気候などでの使用において、特に優れた特性を発揮します。 |
POWERSIL® シリーズのリーフレット(英文)は下記をご参照ください。 |
POWERSIL® (PDF | 2.8 MB) |
各製品の詳細情報につきましては、「製品に関するお問い合わせ」より必要事項をご入力いただき、 お問い合わせください。 |