昨今のヘアケアの市場規模は5,000億円超の微増傾向で推移し、化粧品市場全体がやや低迷している中でヘアケア市場は有望なカテゴリーといえる。1) ヘアケア製品のコンセプト・ターゲットの内訳を見ると、「ダメージケア」が58%、「頭皮・地肌ケア」が17%、「自然派」が12.1%、「エイジングケア」が7.1%となっており2) 、パーマやヘアカラー、毎日の紫外線やドライヤーによりダメージを受けた毛髪のダメージからの保護・修復へのニーズは依然として最も高いことがわかる。本報では、痛んだ毛髪に対し効率よくデポジションする効果を高め、ウェット時からドライ時まで毛根から毛先まで均一な指通りの滑らかさと柔らかさを付与することを目的として開発したシリコーンマクロエマルジョンについて、その特長とコンディショナー処方における毛束を用いたパネルテスト等の評価結果について報告する。
本品は高重合オイルと低重合オイル、さらにアミノオイルの3種のオイルを乳化したマクロエマルジョンである。高重合オイルが持つ柔らかな感触付与効果と低重合オイル配合による毛髪への伸展性と、アミノオイルの持つダメージ部位への効率的なデポジション効果を併せ持つことを特長とする。本品はこれら3種のシリコーンのデポジションをより高める処方によりその効果を高めている。本報では、コンディショナー処方中で毛髪を用いた種々の比較試験結果からその効果を示した。
2.1 毛髪の作製
アジア人毛(カーリング社製)を用い、アセトン:イソプロピルアルコール:エタノール:水=1:1:1:1混合溶媒に一昼夜浸し脱脂処理した後、界面活性剤(Alscope LS25B、 0.5 g/hair)で洗浄後、室温で自然乾燥させた。
2.2 ブリーチ処理
ブリーチ剤(6.0 w/w% 過酸化水素水:2.0 w/w% アンモニア水 =1:1混合液)に30℃で30分間浸漬し、水洗した。続いて0.1 mol/Lクエン酸と0.2 mol/Lリン酸水素二ナトリウムの緩衝液(pH 3)に室温で5分間浸漬させ、水洗後乾燥させた。
2.3 コンディショナー処理
処方中にシリコーン分が2 wt%となるように調整したコンディショナーを比較試験用として作成した(表1) 。洗浄後の濡れた毛束に作成したコンディショナーを0.5 g/hair塗布し、2分間毛髪に馴染ませるように塗布し、1分間洗浄する工程を2回繰り返した後、室温で自然乾燥させた。
3.1 シリコーンデポジション量の比較
コンディショナー処理した毛髪を一定量炭化後、アルカリ溶解、酸溶解することでSi分を抽出した後、Si量をICP-AES装置(誘導結合プラズマ発光分光分析装置)を用いて測定した。その結果、SLJ 1890/5処方したコンディショナーで処理した毛髪の方が4.0×10-4 mg/g hair Siのデポジション量が多く、より効果的にSiがデポジションしていることがわかった(図1)。
3.2 パネル評価
次にコンディショナー処方にシリコーン分2%となるように処方した試験サンプルを作成し、パネル評価を2点識別法にて行った(図2)。パネルは7名で実施し、毛先まで均一な指通りと柔らかな感触がよりすぐれた毛束を(+1)、差がない場合(+0.5)、他方に比べ劣っている場合(0)で得点化した。結果を(図2)示す。SLJ 1890/5が処方されたentry 1において最も高い評価が得られた。
3.3 ベレックソフトネス試験
(表1)に示したコンディショナーについて、コンディショナー処理前後の毛束についてベレックソフトネス試験3) を実施した。本試験は、平行に並んだ複数の金属棒の間を交互に通された毛束サンプルを一定速度で引き上げた時に金属棒にかかる力△J (J・g-1)をインストロン社製、引っ張り試験機、インストロン®3343で測定した。測定は、コンディショナー処理前後のドライヘアーで行い、処理前の毛髪を基準とし、処理前後の変化率を(式1)に従い、算出した。△J (%)が大きいほど、コンディショナー前後の柔らかさが向上し、値が低いほど柔らかさの向上が少ないと評価される。
(式1)
(ここで、J treatedはコンディショナー処理後の平均値、J untreatedはコンディショナー処理前の平均値。) 結果を(図3)に示す。SLJ 1890/5を処方したコンディショナー(entry 1)で、コンディショナー処理前と比べ最も毛髪への柔らかさが向上した。
3.4 走査型電子顕微鏡による毛髪表面観察
コンディショナー処理前後の毛髪の表面状態を走査型電子顕微鏡(日本電子(株)製、JSM-5600LV、加速電圧:5 kV)を用いて観察した(図4)。SLJ 1890/5を処方コンディショナー処理後には毛髪表面のキューティクルの剥がれや損傷の改善効果が見られた。
本報では、3種の異なるシリコーンオイルを乳化したマクロエマルジョンを紹介した。コンディショナー処方にて、毛髪へのデポジション量、パネルテスト、ベレックソフトネス試験、SEMを用いた毛髪表面状態の観察それぞれの結果から、毛髪へのデポジション効果が高く、従来品と比べ毛髪への均一な滑らかさと柔らかさを付与し得ることがわかった。毛髪表面状態の観察結果からも、毛髪のダメージレヴェルを軽減していることがわかり、ヘアケア製品に最も多く求められる「ダメージケア」において高い効果を発揮すると言える。
高いデポジション効果と毛髪に対し柔らかで滑らかな感触を付与する効果を発現することを特長とするシリコーンマクロエマルジョンを開発した。シャンプーやコンディショナー処方中へ安定に混合され、ウェット時からドライ時まで感触向上とダメージケアの一助となる原料と言える。
参考文献
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