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シリコーンエマルジョンのpH測定方法

 

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イントロダクション

pHは、水溶液の酸性/塩基性を示すスケールの一つであり、物性・安定性の変化を測る指標として用いられているが、シリコーンエマルジョンにおいてもpHは重要な測定項目である。従来旭化成ワッカーシリコーンでは、pHの測定にpHインジケーターストリップを使用してきた。これはpHインジケーターストリップの使用が容易でかつ迅速なことに加え、pHメーターはガラス薄膜の汚損に伴い適正な測定値を安定して得るのが困難であるとの過去の知見に基づいていた。

今回、我々は実際に販売している製品群を用い、改めてpHインジケーターストリップとpHメーターによる比較実験を行い、エマルジョンの測定におけるpHメーターの使用可能性及びpHインジケーターストリップおよびpHメーターによる測定値の相関性について報告する。

 

1.pHの測定方法

(1)pHインジケーターストリップ

一般用途で広く用いられているのが、pHに応じて色を変化させる呈色試薬を親水性の基材に浸漬させたpH試験紙である。扱いが容易で安全性が高く、目視でpHを判断できるが、さらに精度の高い測定方法として、pHインジケーターストリップがある(図1)。pHインジケーターストリップの呈色試薬は基材に結合されているため、試験中の試薬の浸出が起こらず長時間の浸漬が可能となっており、懸濁液のようにpHを導出しにくい試料を精度良く測定することが可能である1)

 


図1. pHインジケーターストリップ一例(メルク社製pHインジケーターストリップ)

 

(2)pHメーター

化学反応を伴わず、ガラス電極を用いるpHメーターは、通常、ガラス電極/比較電極/温度計/電圧計、を1セットとして構成される。測定対象の水溶液とガラス電極中の水溶液間に電位差があると、ガラス電極ではガラス薄膜間に電位差が生じる。その電位差を、測定対象と液絡で通じることで電位差が理論上発生していない比較電極との差として測定し、pHとして表す。

 

 

 

2.pHメーターによるエマルジョンのpH測定

(1)試験方法
装置:予めpH標準液で2点校正を行ったpHメーター(温度補正機能付き)
a. エマルジョンに3分間pHメーターを浸漬し、pH値を導出する。
b. 校正に用いたpH標準液にそれぞれ3分間pHメーターを浸漬し、電位差を導出する。
c. 各測定の後、ガラス電極及び液絡部を純水で勢いよく洗い流し、付着した水滴を無塵紙で吸い取る。

 

 

(2)測定対象
高粘度ジメチルシロキサン大粒径マクロエマルジョン(濃度50%、ノニオン系)(図2)
官能基のある中粘度ジメチルシロキサンマクロエマルジョン(濃度40%、ノニオン系)(図3)
アミノ変性シリコーンマクロエマルジョン(濃度40%、ノニオン系)(図4-1、4-2)

 

 

(3)結果
a. 高粘度ジメチルシロキサン大粒径マクロエマルジョン(図2)

 


図2. 高粘度ジメチルシロキサン大粒径マクロエマルジョン(濃度50%)のpH測定結果

 

pHは6.14~6.19と3分の間で概ね安定した数値を示し、pH標準液の測定による電位差勾配も概ね-58mV/pH近辺の適正値を維持した。また、ガラス薄膜部に目視で確認できる変化は起きなかった。この他にも、濃度やpHの異なる類似のジメチルシロキサン系エマルジョン6製品においても同様の測定を行ったが、同測定条件においてpHの変化や電位差勾配の変化は見られなかった。いくつかの製品では測定回数を重ねるごとにpHメーターの応答時間が長くなる傾向が見られたが、いずれもガラス薄膜を、液絡部を避けてトルエンで洗浄した後、内部標準液内に薄膜を浸漬することにより回復した。

 

b. 官能基のある中粘度ジメチルシロキサンマクロエマルジョン(図3)

 


図3. 官能基のある中粘度ジメチルシロキサンマクロエマルジョン(濃度40%)のpH測定結果

 

しかし、図3に示す官能基のある中粘度ジメチルシロキサンマクロエマルジョン(濃度40%、ノニオン系)においては、電位差勾配は適正値以内であるにもかかわらず、pHが安定するまで20分以上かかった。電極の汚損の可能性も考慮し、測定回数1と2でpHメーターを交換したが、測定時間に変化は見られなかった。

 

c. アミノ変性シリコーンマクロエマルジョン(図4-1、4-2)

 


図4-1. アミノ変性シリコーンマクロエマルジョンのpH測定結果1

 


図4-2. アミノ変性シリコーンマクロエマルジョンのpH測定結果2

 

初回の測定において、pHは測定ごとに徐々に高くなってゆき、電位差勾配は2回目の測定以降適正値(~-58mV/pH)を大幅に下回った(図4-1)。なお本測定後、電極をトルエンで洗浄し、液絡部に加圧して内部から電極液を通す操作を行ったところ、電位差勾配が正常値に復旧した。上記エマルジョン(ロットA)および、pHの異なるロット(ロットB)に対し、ガラス電極を交換して改めて測定を行ったところ、pHの測定値はほぼ一定値を示し、電位差勾配のみ測定に伴い適正値より低い値に変化した(図4-2)。

なお、図4-1および図4-2の測定後、ガラス電極が撥水していることが確認できた。

 

 

(4)考察

図3の官能基のある中粘度ジメチルシロキサンマクロエマルジョンにおいて観測されたpHメーターの応答の遅れは、エマルジョンの配合組成などにより、pHメーターの応答が阻害され、長時間の浸漬が必要となる可能性を示唆している。

図4-1のアミノ変性シリコーンマクロエマルジョンで観測された、pH測定値および電位差勾配の急激な低下は、他のエマルジョンの測定結果との比較により液絡部の目詰まりに起因すると考えられる。

アミノ変性シリコーンエマルジョンは、カーポリッシュなどで広く使用されるなど、ガラスなどの無機材料面に対し、極めて高い親和性を示して撥水性を付与する効果が高い。このことから、図4-1の測定においてはガラス電極の他、セラミックス製の液絡部に付着してpHの異常および急激な電位差勾配の変化を示し、図4-2の測定においては測定を繰り返すことにより徐々にガラス電極に吸着して、電位差勾配の低下を起こしたものと考えられる。

なお、電極の撥水を確認した後、pHメーターを、液絡部を避けてトルエン*及び0.1N塩酸*にて洗浄したところ、pH測定値および電位差勾配は正常値に戻ったものの、洗浄の前後で、撥水性に顕著な差は見られなかった。アミノ変性シリコーンを完全に取り除くためには、5~10wt%の塩酸*による処理や界面活性剤溶液中での超音波洗浄などが必要であると考えられる。

*:メーカーによっては推奨していないため、実施には注意が必要である。

 

 

 

3.pHインジケーターストリップによるpHメーターとの相関性検証

(1)試験方法
a. pHインジケーターストリップ:エマルジョンに浸漬し、1~10分後に目視でpHを判定する。
b. pHメーター:校正の後、3分値を測定する。

 

 

(2)測定対象
アミノ変性シリコーンマクロエマルジョン(濃度40%)(表1)
ジメチルシロキサン系マクロエマルジョン(濃度40%、アニオン/ノニオン系)(表2)
ジメチルシロキサンマクロエマルジョン(濃度60%、ノニオン系)(表3)
消泡剤エマルジョン(濃度17%、ノニオン/アニオン系)(表4)
消泡剤エマルジョン(濃度17%、ノニオン/アニオン系)、pHはほぼ中性のロット(表5)
ジメチルシロキサンエマルジョン(濃度50%、ノニオン系)、pHは弱酸性のロット(表6)

 

 

(3)結果
アミノ変性シリコーンマクロエマルジョンの測定においては、1~10分のいずれの時点においてもpHインジケーターストリップとpHメーターは同値を示した。

 

表1. アミノ変性シリコーンマクロエマルジョンのpH測定結果

測定時間
(分)
pHインジケーターストリップ pHメーター
2.0-9.0
1 7.0  
3   7.0
5 7.0  
10 7.0  

 

ジメチルシロキサン系エマルジョン(濃度40%)の測定では、pHインジケーターストリップ浸漬時間5分において、ジメチルシロキサンエマルジョン(濃度60%)では、pHインジケーターストリップ浸漬時間10分において、pHメーターとほぼ同値を示した。

以上の結果より、エマルジョンの濃度が高くなるほど、pHインジケーターストリップの数値がpHメーターと同値になるまでの時間が長くなることが示唆された。

 

表2. ジメチルシロキサン系マクロエマルジョンのpH測定結果

測定時間
(分)
pHインジケーターストリップ pHメーター
2.0-9.0 4.0-7.0
1 5.0 5.0  
3     4.7
5 5.0-4.5 4.7  
10 4.5 4.7  

 

表3. 高濃度ジメチルシロキサンマクロエマルジョンのpH測定結果

測定時間
(分)
pHインジケーターストリップ pHメーター
2.0-9.0 2.5-4.5
1 4.0 3.9  
3     3.2
5 3.5 3.6  
10 3.0 3.3  

 

pHが弱塩基領域の消泡剤エマルジョンにおいては、浸漬時間5分において、pHインジケーターストリップとpHメーターはほぼ同値を示した。しかし、同組成且つpHが弱酸性~中性領域である表5のエマルジョンでは、pHインジケーターストリップはpHメーターと比べてやや低い数値を示した。

 

表4. 消泡剤エマルジョンのpH測定結果

測定時間
(分)
pHインジケーターストリップ pHメーター
2.0-9.0
1 7.5  
3   8.3
5 8.0  
10 8.0  

 

表5. 消泡剤エマルジョンのpH測定結果

測定時間
(分)
pHインジケーターストリップ pHメーター
2.0-9.0
1 6.5  
3   7.2
5 6.5  

 

同様の試験を、図2で使用したジメチルシロキサンエマルジョン(濃度50%)で実施したところ、消泡剤エマルジョンと同様、pHインジケーターストリップはpHメーターと比べて低い数値を示した。

 

表6. ジメチルシロキサンエマルジョンのpH測定結果

測定時間
(分)
pHインジケーターストリップ pHメーター
2.0-9.0
1 5.0  
3   6.1
5 5.0  
10 5.0  

 

 

(4)考察

アミノ変性シリコーンのエマルジョンについては、高濃度品においてもpHインジケーターストリップは迅速かつ妥当な測定値を示した。ジメチルシロキサン系のエマルジョンに対しては、濃度が高くなるほどpHインジケーターストリップの応答が遅くなる傾向が見られた。これは、シリコーンそのものがイオン性を示すアミノ変性シリコーンとは異なり、イオン性を持たないジメチルシロキサンを主原料とするエマルジョン内では、シリコーン‐界面活性剤粒子の占める体積率の増加に伴い、イオン性の物質(例:原料水内の微量塩類、防腐剤など)の移動が阻害され、pHインジケーターの発色団への移動が阻害されたためと考えられる。

 

 

おわりに

pHメーターは、ジメチルシロキサン系のエマルジョンに対しては、一定の回数までは溶媒などによる洗浄なしに適正な数値を得ることができた。しかし、配合組成によってはpHメーターの応答が遅れて20分以上など長時間の浸漬を要する事例が見られた。このことから、未知の試料に対しては長時間の浸漬などを行い、pHの安定する条件を見出すことが重要であると考える。また、電位差勾配に異常はなくとも、電極や液絡部周囲に撥水が見られた場合は、シリコーンの付着が生じていることから、試料のコンタミネーションを避けるうえでも、有機溶媒*などによる洗浄を行うのが好ましい。

また、アミノ変性シリコーンマクロエマルジョンの測定では、電位差勾配が徐々に低下する現象が確認できたことから、pHメーターによる測定の際には、信頼できる測定値を得るために、通常の校正に加えて有機溶媒*や他の洗浄用液による洗浄工程および、洗浄後の内部標準液の交換と、純水または内部標準液への長時間(1時間以上)浸漬によるガラス薄膜の安定化が必要になると思われる。また、pHが大幅に変化した場合は、液絡部の目詰まりが生じていたため、上記の作業に加えて、内部標準液の加圧などにより液絡部の目詰まりを除く作業が必要であった。

*:メーカーによっては推奨していないため、実施には注意が必要である。

 

一方、pHインジケーターストリップは、pHメーターとほぼ同等の値を示し、且つ使い捨てのため上記のような汚損リスクがない。中でも、ガラスへの付着を生じやすいアミノ変性シリコーンのエマルジョンに対し、pHインジケーターストリップが迅速かつ安定な応答を示したことは、数値の信頼性と同じく作業効率上も我々にとって有益なデータであった。

一部の高濃度ジメチルシロキサンエマルジョンにおいては、pH インジケーターストリップはpHメーターの3分値と同等の数値を得るまでに5~10分とやや長い浸漬時間を要したが、校正~洗浄の工程が不要であることから、pHインジケーターストリップの優位性には変わりはない。また、弱酸性~中性の領域において、pHインジケーターストリップはpHメーターに対してやや低い値を示す場合があった。

pHインジケーターストリップは、汚損や目詰まりによる精度の低下無く、簡便且つ迅速なpHの測定が可能である。今回改めて確認試験を実施し、その精度を確認したことは、今までの測定データの優位性を再認識するだけでなく、これからの新規品開発においても十分に意義のある成果であると考える。

 

参考文献
1.pH-tests メルクpH試験紙 / 指示薬(メルク株式会社 2011年)

 

 

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