本報で紹介するエマルジョン(SLJ 10025)は、水溶性離型剤の課題であった金型への付着性と鋳巣不良を改善することを目的として開発されたエマルジョンであり、ベースオイルにダイカスト離型剤として好適であり、かつ高いペインタブル性を有するアルキル-アラルキル変性シリコーンオイルを用い、従来の有機系の界面活性剤を用いずに乳化した水中油型のシリコーンエマルジョンである。
本報では、アルミ離型剤評価用ラボ試験機での評価から、SLJ 10025の離型性と鋳肌の鋳巣低減効果について検証した結果を紹介する。
(1)評価試料 開発エマルジョン(SLJ 10025)の比較として、同じベースオイルを用い有機系の界面活性剤で乳化したエマルジョンを用いた。 エマルジョンは約100倍に希釈し、Si量で約0.5 %となるように調製した。 (2)評価方法 試験試料には、本品との比較として従来の有機系の界面活性剤で乳化したエマルジョンを使用した。 測定は、表1に示す条件で行った。 まず、自動引張試験機(メックインターナショナル製、商品名:LubテスターU)に熱電対が内蔵された付属の鋼板を市販のヒーターで設定温度条件まで加熱した。 次に、鋼板を垂直に立て、希釈したエマルジョン調製液をスプレー塗布した。 その後、直ちに、鋼板を自動引張試験機に水平に設置し、その中央に筒(メックインターナショナル製、内径:75 mm、外径:100 mm、高さ:50 mm、材質:S45C)を載せ、筒の中に溶湯アルミを90 cc(約240 g)注ぎ、40秒間放冷し固化させた。 固化後直ちに鉄製の重し(約9 kg)を筒の上に静かに載せ、自動引張試験機のギヤーで筒を引っ張り、摩擦力(引っ張り抵抗)(kgf)を計測した。この時、初期ピーク(静止摩擦力)を離型抵抗値として評価した。 さらに、試験後のテストピースの離型面の状態を目視により観察した。 |
表1.評価試験条件 |
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(1)離型抵抗値の比較 鋼板温度300 ℃と350 ℃での離型抵抗測定結果を図1に示す。 離型抵抗値(摩擦力)が小さいほど離型性は良好であった。 鋼板の温度が300 ℃の条件では、いずれのエマルジョンも離型抵抗値は約8 kgfであり、離型剤の違いによる大きな差異は見られなかった。 350 °Cの高温域では、従来品と比べSLJ 10025の離型抵抗値は、3~5 kgf低い値を示した。 本評価方法においては概して、離型抵抗値が10 kgfより小さいと金型鋳造の際にアルミ等の溶着やカジリ等の不具合の発生が少なくなる傾向があり、特に水溶性離型剤においては一般に、ライデンフロスト現象などにより、150~250 °Cが離型剤の安定付着領域であり、350 °Cという高温で抵抗値が10 kgf以下を示すことは非常に大きな発見と考えられる。 |
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図1.離型抵抗値の比較結果 |
(2)離型後の鋳肌評価 続いて各離型評価後の試験片の離型面を比較した(図2)。従来のエマルジョンと比較し、いずれの温度領域でも表面の界面活性剤由来の鋳巣の量が極めて少なく、加えて溶融流れ跡や焼き付き跡も少なく、滑らかな離型面が得られることがわかった。特に、350 °Cでの従来エマルジョン使用時の鋳肌面の差は明確であり、このことから本品は優れた低鋳巣性を有し、アルミの溶着や焼き付きが極めて少ない離型面を提供し得ることがわかる。 |
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図2.離型面の鋳肌観察結果 |
本報では、水溶性離型剤の課題であった金型への付着性と鋳巣不良を改善することを目的として開発されたエマルジョンSLJ 10025について、アルミ離型剤用途での性能評価を行った結果、従来型のエマルジョンと比較して離型性の低抵抗化と鋳肌の鋳巣低減効果において高い効果を発揮することがわかった。
水溶性離型剤における課題であった高温領域での付着性と界面活性成分由来と考えられる鋳巣発生を解決し、シリコーンオイル自身の耐熱性と耐酸化性を損なわずに、離型性と鋳巣抑制効果を有することを特長とする離型剤用シリコーンエマルジョンの開発に成功した。 本品を鋳型製造ラインに適用することにより、離型後の加工レス化による生産性の向上や環境負荷低減効果等が期待できると言える。
参考文献
1) 後藤昌央、宮腰浩明、前田康幸、杉本昌繁, 「水溶性ダイカスト離型剤の付着挙動」, 日本ダイカスト会議論文集, JD06-12 (2006), p.71
2) 岩佐昌光他, 日本ダイカスト会議論文集, JD08-08 (2008)
3) 松木有他, 日本ダイカスト会議論文集, JD04-14 (2004)
4) 後藤昌央他, 日本ダイカスト会議論文集, JD06-12 (2006)
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