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耐熱塗料用バインダー向けシリコーン樹脂エマルジョンSILRES® MPF 52 E

 

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はじめに

 昨今、国や業界団体では、環境規制の強化やリスクアセスメントに関する規制が施行され、地球環境や職場環境への化学物質の排出量削減に対して求められる基準が厳しくなっている。今回紹介する、耐熱塗料用バインダー向けメチルフェニルシリコーンレジンエマルジョンSILRES® MPF 52 Eは、従来の耐熱塗料用シリコーンレジン製品と異なり、トルエン、キシレン、エチルベンゼンを含まないため、VOCの低減効果などによる環境対応型塗料への適用が期待できる。また、シリコーンレジンの骨格中にアルコキシ基を有するため、アルキッド、アクリル、ポリエステル等の有機樹脂の変性が可能である。

 

1.シリコーンの耐熱塗料への使用

 シリコーンレジンは分岐度の高い三次元ポリマーからなり、加熱により硬化して硬い皮膜を形成する。シリコーンレジンは、耐熱性、耐候性、電気絶縁性、耐薬品性、耐水性など優れた特徴を有する。また、トルエン、キシレンなどの芳香族炭化水素系溶剤によく溶け、無機物質との親和性も高いことから、有機溶剤に溶解させて使用するのが一般的である。

 

シリコーンレジンの用途例1   シリコーンレジンの用途例2
 図1.シリコーンレジンの用途例 

 

 

2.シリコーンレジンによる有機樹脂の変性

 シリコーンレジンは、耐熱性、耐候性などに優れた特性を持つものの、機械的強度や密着性などが劣るため、適用範囲には限界がある。そのため、様々な有機樹脂と組み合わせて変性し、変性シリコーンレジンとして用いられることが多い。有機樹脂との変性により、シリコーンレジンの欠点を補うだけでなく、シリコーンの持つ耐熱性、耐候性など種々の特性を有機樹脂に付与し、新しい機能を発現させることが可能になる。

最近では変性に用いられるシリコーン及び有機樹脂の種類も多様化し、変性シリコーンレジンの種類や用途も多岐に渡っている。シリコーンレジンと有機樹脂の変性には、これら2つを化学的に結合させる方法と、機械的に混合して分散させる方法の2つがあるが、一般に化学的に結合させた変性シリコーンレジンの方が、性能が優れている。

 化学的結合による変性方法としては、アルコキシ基等の反応性基を分子中にもつ有機樹脂とシリコーンレジンの官能基を触媒未添加、または有機チタネートなどの触媒存在下で加熱し脱水縮合反応、あるいは脱アルコール縮合反応により変性する方法が一般的に使用される。

 

 

3.エマルジョンのメリットと課題

 環境保全、作業安全性の確保、VOC(揮発性有機化合物)規制といった観点から、溶剤の一部または全部を水に置き代えた水系塗料の需要が増えている。脱溶剤という市場の流れから、バインダーとして使用されるシリコーンレジンにおいても、従来のトルエン、キシレンなどの有機溶剤に溶解させた溶剤系の製品の低VOC化や、または水系へ切り替えたエマルジョン化が提案されている。

 その中でも、エマルジョン系は全ての溶剤を水に置き換えることができるため溶剤削減効果は大きいが、アルコキシ基等の反応性基で変性されたシリコーンレジンを乳化する際に、シリコーンレジンの溶剤含有量が少ないと、乳化性が悪くなり、安定なエマルジョンを得るのが難しいという課題があった。

 

 

4.メチルフェニルシリコーンレジンエマルジョンSILRES® MPF 52 E

 ドイツWacker社は適切なノニオン性界面活性剤とシリコーンレジンの選択により、トルエン、キシレン、エチルベンゼンを一切含まないアルコキシ基含有メチルフェニル系シリコーンレジンエマルジョンSILRES® MPF 52 Eを新規に開発した。

 SILRES® MPF 52 E は固形分が約60%と高いが、粘度が50-300 mPa・sと低粘度であるため、従来の溶剤系と同様に容易に塗工できる。また、トルエン、キシレン、エチルベンゼンを一切含まないため、労働安全衛生法の特定化学物質障害予防規則(特化則)の適用を受けない。またFDA(米国食品医薬品局)やBfR(ドイツ連邦リスク評価研究所)の基準にも準拠しており、食品接触用途への展開も期待できる。

 

 

5.SILRES® MPF 52 Eの使用による有機樹脂変性工程の削減

 SILRES® MPF 52 Eはアルコキシ基含有シリコーンレジンをベースオイルとしたエマルジョンであるため、アルキッド、アクリル、ポリエステルなどの樹脂の変性が可能である。

 一般に有機樹脂変性シリコーンレジンは、有機溶剤中でシリコーンレジンと有機樹脂を混合して合成された後、塗料中に組み込まれる。一方、エマルジョン系であるSILRES® MPF 52 Eは有機樹脂エマルジョンと塗料中で直接混合させても、有機樹脂の変性が可能であるため、シリコーンレジン変性有機樹脂をバインダーとする耐熱塗料を製造する際の工程短縮を可能にする。

 

 

6.SILRES® MPF 52 Eによるアクリル樹脂変性

 表1に塗料処方中でアクリル樹脂を変性し、シリコーンレジン変性アクリル樹脂をバインダーとする耐熱塗料の処方例を示す。

表2に作製した塗工膜の評価結果を示す。いずれの評価結果も非水系シリコーンレジンを使用し、アクリル樹脂変性と塗料製造の二段階の工程で製造された耐熱塗料と同程度の値を示すことが確認された。

 

表1.アクリル樹脂変性の処方例
・分散方法
1~3 ビーズミル 周速度
4~6 ディゾルバー 周速度 1.57m/sで5分間混合
No. 数量(%) 成分
1 10~15
2 4~8 界面活性(分散)剤、分散剤、水系消泡剤 等
3 22~38 滑剤、エクステンダー、黒色顔料 等
4 20~40 SILRES® MPF 52 E
5 12~24 アクリル樹脂エマルジョン
6 1~3 増粘剤 等

 

表2. SILRES® MPF 52 Eによるアクリル樹脂変性の塗工膜の物性値
・タックフリー時間 30分 (DIN EN ISO 9117-5)
基材 焼き付け
条件
乾燥膜厚
(μm)
ペンデュラム
硬度
(Koening)
鉛筆硬度 付着性
クロスカット
(テープなし)
付着性
クロスカット
(テープ)
耐溶剤性MEK1)
(Double rubs)
チョーキング 硬度
(4min/
200℃)
ΔE
(Labの差)
- - JIS K
5600-5-4
JIS K 5600-5-6 - JIS K
5600-8-6
- JIS K
8741
DIN EN
13523-1
DIN ISO
1522
DIN EN ISO
15184
DIN EN ISO2409 DIN EN ISO
13523-11
DIN EN ISO
4628-6
- DIN EN ISO
2813
ステン
レス鋼
45分/250℃ 17 74 2H 0 0 88 0 HB -
10分/280℃ 16 77 2H 0 0 140 0 B -
45分/250℃
+1hr/300℃
19 68 HB 0 0 183 0-1 HB 1.88
10分/280℃
+1hr/300℃
18 73 HB 0 0 >200 0-1 HB 2.12
リン酸
45分/250℃ 14 78 2H 0 0 171 0 HB -
10分/280℃ 20 79 2H 0 0 >200 0 B -
45分/250℃
+1hr/300℃
15 71 HB 0 0 195 0-1 HB 1.89
10分/280℃
+1hr/300℃
19 73 HB 2 4 185 0-1 HB 2.14
1)JIS5600-5-11で用いる耐洗浄性試験機のブラシ部位を、MEKを浸漬させたスポンジに置き換え、5Nの荷重を加えて塗膜の摩擦試験を実施。塗膜が剥がれる(溶解する)までの往復摩擦回数を記載。150往復以上で耐溶剤性があると判断。

 

 

7.おわりに

 優れた耐熱塗料を与えるシリコーンレジン製品で、キシレン、エチルベンゼンを含まない製品は既存市場にはなかった。SILRES® MPF 52 Eは、これらの溶剤を含まない上、アクリル、アルキッド、ポリエステル樹脂等と優れた相溶性を有し、容易に有機樹脂を変性することができるため、シリコーンレジン変性有機樹脂をバインダーとする耐熱塗料を簡便に製造することが可能である。環境規制の高まる中で、将来を見据えた塗料の開発が期待できる。

 

適用法令
化学物質管理促進法: 第1種指定化学物質第407号  ポリオキシエチレンアルキルエーテル

労働安全衛生法
施行令別表第1 危険物: 引火性の物
施行令第18条(名称等を表示すべき有害物): メタノール
有機溶剤中毒予防規則: 第二種有機溶剤 メタノール

消防法
危険物第4類(引火性液体)・第2石油類(水溶性液体)

参考文献
1) シリコーンハンドブック, 伊藤邦雄著, 日刊工業, p466-470

 

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