樹脂材料は金属・無機材料に比べて軽いという長所を持つが、有機物であるため、熱、光、電気、放射線などに対する耐性は金属・無機材料に比べて弱く、劣化しやすいという短所がある。樹脂材料の劣化を促進する因子はいろいろと存在し、多くの場合、樹脂に対して長期的・複合的に作用する。従って、樹脂材料を工業用部材に用いる場合には、樹脂の特性を把握し、使用環境に応じた適切な劣化対策(長寿命化設計)が必要となる(1)。今回紹介する過酷な湿熱環境下でも樹脂の加水分解を抑制する液状シリコーンゴムは、過酷な湿熱環境下で加水分解性を持つ樹脂の加水分解を抑制し、耐湿熱性を向上させるだけでなく、難燃性も向上させる効果を付与することができるため、従来は使用が困難であったさまざまな用途への展開が期待できる。
樹脂材料は使用する環境によって求められる特性はさまざまである。例えば、耐光性、耐候性、耐熱性、電気的耐久性、耐水性、耐湿性、耐薬品性、寸法安定性、耐摩耗性、耐疲労性、耐生物性などいった特性が挙げられる。樹脂材料は過酷な環境下で使用されることが多く、耐光性、耐候性、耐熱性、耐水性、耐湿性、耐薬品性といった特性に関する不具合事例が比較的多いとされる(2)。 |
図1. PETの加水分解 |
4.1 SLJ 40815 A/Bの特徴 今回紹介するプロトタイプ(SLJ 40815 A/B)の基本物性を表1に示す。本製品の特徴は以下の通りである。 |
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付加硬化システムのため硬化が速い。 低粘度2液型のため取扱いやすく、基材形状にあわせて薄く、かつ、均一なシリコーン層を形成できる 自己接着性のため、さまざまな種類や状態の基材に強 力に接着し、保護効果を長期間維持できる。 無溶剤型のため、溶剤による劣化を起こさず、環境負荷も低減できる。 |
項目 | 単位 | 物性例 |
A剤粘度(0.89 s-1) | mPa・s | 37 |
B剤粘度(0.89 s-1) | mPa・s | 34 |
密度 | g/cm3 | 1.03 |
硬さ(タイプAデュロメータ) | - | 22 |
引張強さ | MPa | 2.7 |
伸び | % | 400 |
硬化条件:170 ℃ X 5 min 測定条件:JIS K 6249 |
サンプル | SLJ 40815 A/B | ELASTOSIL® LR 6200 A/B | ELASTOSIL® LR 6200 A/B |
標準処方 | SLJ 40815 A:50部 SLJ 40815 B:50部 |
LR 6200 A:50部 LR 6200 B:50部 GENIOSIL® GF80:1部 |
LR 6200 A:50部 LR 6200 B:50部 GENIOSIL® GF80:1部 |
樹脂材料の状態 | PET織物/未精練 | PET織物/未精練 | PET織物/精練 |
接着試験結果(揉み試験回数) | |||
初期接着 | 3,000回 | 1,500回 | 2,000回 |
湿熱後接着 | 2,000回 | 1,000回 | 1,500回 |
硬化条件:190 ℃X 40秒、コーティング量:20 g/m2 接着試験:ISO 5981 (荷重10N、初期接着:24時間後、湿熱後接着:80 ℃ X 95% RH X 20日後) |
写真1 SLJ 40815 A/Bの燃焼試験の様子 | ||
(左:着火時、右:消火時) |
表3 SLJ 40815 A/B とELASTOSIL® LR 6200 A/Bの燃焼性の比較例
サンプル | SLJ 40815 A/B | ELASTOSIL® LR 6200 A/B | ELASTOSIL® LR 6200 A/B |
標準処方 | SLJ 40815 A:50部 SLJ 40815 B:50部 |
LR 6200 A:50部 LR 6200 B:50部 GENIOSIL® GF80:1部 |
LR 6200 A:50部 LR 6200 B:50部 GENIOSIL® GF80:1部 |
樹脂材料の状態 | PET織物/未精練 | PET織物/未精練 | PET織物/精練 |
燃焼性試験結果 | |||
状況/燃焼速度 | 自消/燃焼速度なし | 燃焼/80 mm/min | 燃焼/60 mm/min |
硬化条件:190 ℃X 40秒、コーティング量:20 g/m2 燃焼性試験:FMVSS No.302 |
液状シリコーンゴム製品で、過酷な湿熱環境下であっても、加水分解性を持つ樹脂の加水分解の進行を抑制し、良好な接着性と難燃性を付与することができ、環境負荷を低減するような製品は既存市場にはなかった。SLJ 40815 A/Bは、今後の高耐久樹脂材料の開発に大きく貢献することが期待できる。
参考文献
(1) 大勝靖― 監修 高分子の劣化機構と安定化技術 シーエムシー出版, 2005, pp.3
(2) 西村寛之 工業部材を長持ちさせるための設計・評価 工業材料 日刊工業新聞社 2018 Vol.66 No.7
(3) 帆高寿昌 ポリカーボネート(PC)工業材料 日刊工業新聞社 2018 Vol.66 No.7
(4) 木下幸治 ポリアミド(PA)工業材料 日刊工業新聞社 2018 Vol.66 No.7
(5) 吉田創貴 ポリブチレンテレフタレート(PBT)工業材料 日刊工業新聞社 2018 Vol.66 No.7
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