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車載大型ディスプレイ向けオプティカルボンディング材 LUMISIL® FLEXシリーズ 

 

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はじめに

 車載ディスプレイのオプティカルボンディング材として注目される、シリコーン製Optical Clear Resin(OCR)材について、大型の車載ディスプレイを対象に開発された新製品LUMISIL® FLEXシリーズについてご紹介いたします。



1. 車載ディスプレイのトレンド





 

  近年、電子材用途においてさらなる付加価値としてモノのインターネット(IoT)機能を搭載した製品が市場に広がってきました。そういった先進機能の付加に伴い、家電や産業、車載装置ではタッチスクリーンパネルや大型・曲面ディスプレイなど表示装置システムにおける最新の技術に対する需要が急増しています。その中でも車載用途では先進技術による運転サポートやハイクラスな価値の体験に対するニーズに応えるため、あらゆる機能の電子化が進んでいます。その傾向に伴い車載ディスプレイの市場拡大は著しく、2017年の生産ユニット数111Mユニットに対して、2024年には171Mユニットにまで達する見込みがあります(2019年IHS Markit調べ)。運転席周辺のディスプレイ化は多岐にわたり、センターインフォメーションディスプレイ(CID)、ヘッドアップディスプレイ(HUD)、バックミラーやサイドミラーディスプレイなど、運転中に必要な視覚情報がディスプレイから得られる技術が開発されています(図1)。
 しかしこれまで民生用途で用いられてきたスマートフォンやタブレットに使われているディスプレイと比較して、車載ディスプレイの使用環境は幅広く、より厳しい環境下(-40℃-105℃)で安定したパフォーマンスを保つことが必要となります。 また、その厳しい環境下での信頼性に加え、求められるデザインの自由度も幅広く、自動車のコンセプトに即した大型や曲面のディスプレイに対応した部材が車載ディスプレイの開発には欠かせなくなっています。その中でも視認性に大きく影響を及ぼすオプティカルボンディング材はディスプレイのパフォーマンスを左右する材料の一つであり、多様なニーズに対応した物性が求められ、弊社でも主力プロジェクトとして開発を進めています。
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図1.車載ディスプレイを搭載したコックピットのイメージ

 

2. 高伸びを特徴とするLUMISIL® FLEXシリーズ

  これまでの幅広い製品ポートフォリオに即して、それぞれの製品をご評価いただきましたお客様のご要望から車載大型ディスプレイ向けにLUMISIL® FLEXシリーズを開発しました(図2)。


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図2. Wacker OCR材の製品ポートフォリオ 

 
 車載ディスプレイの使用環境下で特徴的な点は幅広い温度領域であり、低温は-40℃から高温は105℃まで想定されています。その幅広い温度領域を想定して冷熱衝撃試験装置を用いた信頼性の評価が行われます。その際に、OCR材に対しては対角線方向に応力がかかり、信頼性に劣った場合の剥がれは主に対角方向に発生します。液晶ディスプレイと樹脂カバーの熱膨張率の違い(表1)から、接着剤に対してせん断方向にひずみの差が生じることで、応力が発生します。その応力を緩和し、ひずみの差に追随させるため、弊社はOCR材の物性に改良を図り、高い信頼性を発現するOCR材を開発しました(表2)。


表1. 各材料の熱膨張率と対角方向のひずみ(15 inch、-40℃⇔95℃想定)
  熱膨張係数
[10-5/oC]
対角方向の
ひずみ[mm]
 SUS 0.15 - 0.171) 0.008 – 0.009
 ガラス 0.85 - 0.902) 0.040 – 0.050
 PMMA 5 – 93) 0.260 – 0.460
 PC 6.63) 0.340



表2. 汎用グレードとFLEXグレードの比較例
  単位 202 UV A 202 FLEX #2
  粘度(A+B) mPa*s 2000 1,300
  針入度 mm/10 30 45
  伸び % 600 1500
  引張せん断接着強さ kgf/cm2
(PC/Glass)
1.6 1.9


    

 
  これまでの材料と異なる点は2点あり1点目は高い伸び率の発現です。引張せん断接着強さを測定し、得られたS-Sカーブの結果を図3に示します。汎用グレードのLUMISIL® 202 UVでは測定時の厚さ0.3 mmの600%に当たる1.8 mmの変位で破断が生じます。一方で伸び性を改良したLUMISIL® 202 FLEX UV #2ではその厚さ0.3 mmに対して1900%に当たる5.7 mmまで破断せずに変位に追随します。      
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    図3. 引張せん断接着強さのS-Sカーブの比較
     
 

 2点目は樹脂カバーに対して接着し、接着試験での破壊モードは凝集破壊を示しており、OCR材の接着特性を最大限に発現する製品となります(図4)。界面剥離が生じてしまった場合、OCR材自体の伸びの特性を最大まで発現することはできず、剥がれの原因となってしまいます。破断時に凝集破壊が生じることで、破断が起きるまではディスプレイカバーの膨張収縮にOCR材が追従できていることとなります。
 

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図4. ポリカーボネートに対する凝集破壊の様子



 引張せん断接着強さの測定結果から接着性の評価を行い、伸び性が改良できた製品から、信頼性試験の評価を実施します。実際に信頼性試験のシミュレーション試験を行った結果を図5に示します。厚さ0.3 mm のOCR材LUMISIL® 202 FLEX UV #2を用いて 320 x 200 x t2 mmのPCとガラス試験片を貼合し、-30℃⇔80℃ 各30分の信頼性試験を実施した結果2000サイクルまで剥がれやボイドは確認されませんでした。残念ながら剥がれが生じてしまったサンプルは、熱膨張率の違いからひずみが最も大きく生じる対角線上の隅で剥がれが生じます。
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図5. 2000サイクルを達成したLUMISIL® 202 FLEX UV #2 (左)と
剥がれが発生したサンプル(右)

  

 

3.  貼合プロセスとディスプレイ設計のトレンド

 Wackerのシリコーン製OCR材は幅広い製品ポートフォリオを有しており、お客様のディスプレイ設計に適した材料選定はもちろんのこと貼合プロセスのご提案も行っております。近年では国内外の装置メーカーとのタイアップも行っており、貼合プロセス開発のフィードバックからWacker Koreaを拠点として新製品の開発を随時行っています。
曲面ディスプレイに対する貼合プロセスについても海外では装置メーカーの協力のもと最適化を進めております。ディスプレイの意匠性や高い価値の経験など様々な付加価値に応えるべく、車載ディスプレイのみならず様々なアプリケーションに対応したOCR材の開発も行っております。High Reflective Index (HRI)の特性を持った製品や、室温環境下でも短時間で硬化する速硬化型の製品、低粘度で耐久性に優れた屋外大型向けの製品など、海外ではすでに様々な顧客に評価いただいております。




参照

1). 「ステンレス協会」http://www.jssa.gr.jp/contents/about_stainless/key_properties/comparison/
2). 「ガラスの種類辞典」https://www.glassdictionary.com/01/post_662.html
3). 「華陽物産株式会社 プラスチック物性一覧表」https://kayocorp.co.jp/common/pdf/pla_propertylist01.pdf




  
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