WPCは、木粉と熱可塑性プラスチックをプラスチックの融点以上の温度で混合(混練)し、プラスチックのように押出成形や射出成型をして得られる素材である。したがって、フィラー充填プラスチックと同じカテゴリーであり、フィラーが炭酸カルシウム、タルクあるいはガラス繊維等の無機素材から、木粉に代わっただけと考えればよい。現在、木粉充填率(重量比)が50%程度のWPCは、デッキ材などのエクステリア製品において使用が拡大している。
表1にWPCの一般的な配合処方を示す。 |
図1.WPCの用途 |
一般的に木粉充填率が多くなるほど、加工時の熱流動性が低下し、混練及び成形が困難になる。これまで、流動性を改善するために、WPCの製造時にはステアレートやワックス等の加工助剤が添加されてきた。しかし、既存の加工助剤では潤滑効果が十分でないため、さらなる木粉の高充填化が難しく、さらには、最終製品の性能を低下させる等の問題があった。 即ち、今回、Wackerが新たに開発したGENIOPLAST® MASTERBATCHESは、既存のWPC向け加工助剤より優れた潤滑性を有し、最終製品の性能を維持したまま、WPCの生産性を向上させる。
|
表1.WPCの一般的な配合処方
|
GENIOPLAST® MASTERBATCHESは、特殊な構造を有するシリコーンコポリマー中に、各有機樹脂を予め混合し、ペレット状に成形した製品である。表2にGENIOPLAST® MASTERBATCHES 2製品の各物性を示す。
|
表2.GENIOPLAST® MASTERBATCHESの各物性
*開発品 |
GENIOPLAST® MASTERBATCHESのWPCへの加工助剤としての効果は、混練時及び成形時の木材プラスチック複合材の内部と外部表面の摩擦を低減させることである(図2)。この効果により、従来のステアレートやワックスのような有機系加工助剤と比較して、混練の容易化と吐出量の増加が期待できる。下記にGENIOPLAST® MASTERBATCHESの従来の有機系添加剤に対する優位点を右に列記する。
|
GENIOPLAST® MASTERBATCHESの優位点 |
|
◇WPCの製造コストの削減 ・有機系助剤より、少量添加で効果発現 ・木粉の高充填化が可能(プラスチック分の減量) ・吐出量の増加 ◇消費電力の削減 ◇最終製品の機械的物性の改善 ◇最終製品の表面特性の向上 |
|
||
シリコーンコポリマー中の極性の高いウレア結合が水素結合を介して木粉の極性部位と結合するため、木粉のプラスチックへの均一分散性、相溶性を向上させる。 |
シリコーン鎖は木材プラスチック複合材と成形機の間の優れた滑剤として成形時の摩擦を低減させる。 |
GENIOPLAST® MASTERBATCHESの開発品SLM 446402と、一般に広く用いられているステアレートを表3の添加率にて加工助剤として添加し、混練及び成形した際の試験結果を下記に示す。
表3.加工助剤添加条件
組成 | 詳細 | Reference (加工助剤なし) |
Run1 (ステアレート2%) |
Run2 (SLM 1.5%) |
Run3 (SLM 2%) |
PE | HDPE | 38 | 36 | 34 | 36.5 |
木粉 | ソフトウッド | 60 | 60 | 60 | 60 |
カップリング剤 | 無水マレイン酸 グラフトHDPE |
2 | 2 | 2 | 2 |
加工助剤 | ステアレート (既存製品) |
- | 2 | - | - |
SLM 446402 | - | - | 1.5 | 2 |
図3.混練時の各条件でのトルク | 図4.混練時の各条件での圧力 |
図5.成形時の各条件でのトルク | 図6.成形時の各条件での圧力 |
GENIOPLAST® MASTERBATCHESのSLM 446402と従来品のステアレートを加工助剤として使用したときの最終製品の各物性値の測定結果を下記に示す。
図7.曲げ弾性率(EN ISO 178) | 図8.曲げ強度(EN ISO 178) |
図9.吸水率(EN 15534-1) | 図10.膨張率(EN 317) |
以上に紹介したように、GENIOPLAST® MASTERBATCHESは、従来、WPC用の加工助剤として使用されてきたステアレートと同レベルの混練時及び成形時の潤滑効果が期待できるだけでなく、最終製品の機械的物性や表面特性を損なわないという利点が確認された。また、従来のステアリン酸と比較して、少ない添加量で十分な効果を発揮することから、配合原料のコスト削減にもつながる。
参考文献
1) ウッドプラスチックにおけるセルロースナノファイバー技術の応用, 伊藤弘和著,
2) 木質高充填複合プラスチックの製造技術 2, 海老原昇著,