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高温域での低離型抵抗・低鋳巣性を与えるアルミダイカスト用エマルジョン

イントロダクション
ダイカストとは、型となる鋳型(ダイ)に溶湯した金属を圧入し形状を成形する鋳造加工であり、この時のダイと溶湯金属間の接触を防止するために用いられるのがダイカスト用離型剤である。離型剤に求められる性能は、離型剤塗布時の鋳型への付着性、および濡れ拡がり性・密着性だけでなく、成形・脱型後に離型剤成分が堆積物として滞積しないこと、鋳巣や焼き付き、溶融流れ跡がない美しい鋳肌面が得られることが重要な要求性能である 1) 。 特にアルミやマグネシウムのダイカスト用の離型剤においては、300 ℃以上までの高温に晒されながら段階的に潤滑・断熱材として存続していくため、シリコーンオイルなどの耐熱性と耐酸化性の物質が広く利用されている。中でも、シリコーンオイルを有機系の界面活性剤で乳化した水溶性のシリコーンエマルジョンは、水に希釈した形で加熱された金型に吹きつけられるため、火災危険性がほとんどなく、冷却効果が大きい等のメリットがある一方、金型への付着効率や離型剤中の界面活性剤に由来するガス成分が製品中の鋳巣不良発生させるという課題もある 2)-4) 。本報では、前述の水溶性シリコーンオイルエマルジョンの課題を克服すべく、高温金型への耐熱・付着性の高いシリコーンオイルを有機系の界面活性剤を使わずに乳化したエマルジョンを開発し、アルミダイカスト離型剤における性能を検討した。
1. 緒言
本報で紹介するエマルジョン(SLJ 10025)は、水溶性離型剤の課題であった金型への付着性と鋳巣不良を改善することを目的として開発されたエマルジョンであり、ベースオイルにダイカスト離型剤として好適であり、かつ高いペインタブル性を有するアルキル-アラルキル変性シリコーンオイルを用い、従来の有機系の界面活性剤を用いずに乳化した水中油型のシリコーンエマルジョンである。
本報では、アルミ離型剤評価用ラボ試験機での評価から、SLJ 10025の離型性と鋳肌の鋳巣低減効果について検証した結果を紹介する。
2. 試験方法
(1) 評価試料
開発エマルジョン(SLJ 10025)の比較として、同じベースオイルを用い有機系の界面活性剤で乳化したエマルジョンを用いた。エマルジョンは約100倍に希釈し、Si量で約0.5 %となるように調製した。
(2) 評価方法
試験試料には、本品との比較として従来の有機系の界面活性剤で乳化したエマルジョンを使用した。測定は、表1に示す条件で行った。まず、自動引張試験機(メックインターナショナル製、商品名:LubテスターU)に熱電対が内蔵された付属の鋼板を市販のヒーターで設定温度条件まで加熱した。次に、鋼板を垂直に立て、希釈したエマルジョン調製液をスプレー塗布した。その後、直ちに、鋼板を自動引張試験機に水平に設置し、その中央に筒(メックインターナショナル製、内径:75 mm、外径:100 mm、高さ:50 mm、材質:S45C)を載せ、筒の中に溶湯アルミを90 cc(約240 g)注ぎ、40秒間放冷し固化させた。固化後直ちに鉄製の重し(約9 kg)を筒の上に静かに載せ、自動引張試験機のギヤーで筒を引っ張り、摩擦力 (引っ張り抵抗)(kgf)を計測した。この時、初期ピーク(静止摩擦力)を離型抵抗値として評価した。さらに、試験後のテストピースの離型面の状態を目視により観察した。

3. 結果
(1) 離型抵抗値の比較

図1.離型抵抗値の比較結果
(2) 離型後の鋳肌評価

図2.離型面の鋳肌観察結果
4. まとめ
本報では、水溶性離型剤の課題であった金型への付着性と鋳巣不良を改善することを目的として開発されたエマルジョンSLJ 10025について、アルミ離型剤用途での性能評価を行った結果、従来型のエマルジョンと比較して離型性の低抵抗化と鋳肌の鋳巣低減効果において高 い効果を発揮することがわかった。
5. おわりに
水溶性離型剤における課題であった高温領域での付着性と界面活性成分由来と考えられる鋳巣発生を解決し、シリコーンオイル自身の耐熱性と耐酸化性を損なわずに、離型性と鋳巣抑制効果を有することを特長とする離型剤用シリコーンエマルジョンの開発に成功した。 本品を鋳型製造ラインに適用することにより、離型後の加工レス化による生産性の向上や環境負荷低減効果等が期待できると言える。
参考文献
1) 後藤昌央、宮腰浩明、前田康幸、杉本昌繁, 「水溶性ダイカスト離型剤の付着挙動」, 日本ダイカスト会議論文集, JD06-12 (2006),p.71
2) 岩佐昌光他, 日本ダイカスト会議論文集, JD08-08 (2008)
3) 松木有他, 日本ダイカスト会議論文集, JD04-14 (2004)
4) 後藤昌央他, 日本ダイカスト会議論文集, JD06-12 (2006)
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