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ターボチャージャーホース用シリコーンエラストマー材料

イントロダクション


図1 北米における乗用車および軽量トラック
へのターボチャージャー搭載率予測
(RUBBER WORLD 2013 Aprilより)
ターボチャージャーエンジンは中排気量のガソリンエンジンを対象に代替が行われており、生産量も多い。ガソリンエンジンへの採用拡大により、ターボチャージャーおよび関連部品のサプライヤーも生産体制の拡充や、新製品の開発を加速させている。
ターボチャージャー付きエンジンにおいて、シリコーンエラストマー製のターボチャージャーホースは重要な構成部品である。この用途に対して、旭化成ワッカーシリコーン㈱は各種製品を揃えている。ここでは、代表的な製品であるELASTOSIL®(エラストジル)R760/70と、ターボチャージャーの仕組みやターボチャージャーホースの製造例を紹介する。

写真1 ターボチャージャー付きエンジン
へのターボチャージャー搭載率予測
(RUBBER WORLD 2013 Aprilより)
1. ターボチャージャーの仕組み
ターボチャージャーでは、排気ガスのエネルギーを回収して有効に利用する。圧縮によって酸素濃度の高い空気を生み出して利用することで、燃料の燃焼効率は大幅に向上する。その結果、高トルクおよび高馬力を発揮することが可能となる。例えば、2.5リッター4シリンダーターボエンジンでは、大型の6リッターV8エンジンと同等のパフォーマンスを発揮する。燃焼効率が向上することによって、微粒子物質や一酸化炭素の排出量も、環境負荷を低減することが可能となる。

図2 ターボチャージャーの仕組み
2.ターボチャージャーホースの役割
自動車メーカーは吸気、圧縮速度の技術的限界を推し進めることに取り組んでいる。吸気の圧縮で、圧力は約 2.5 気圧にまで圧縮される。この圧縮によって空気は熱を発生する。ターボチャージャーホースには高温の空気通過に伴う絶え間ない圧力振動も発生する。従って、ターボチャージャーホースは耐熱性、耐圧性、伸縮性に優れた材料でなければ使用することができない。
ターボチャージャーホースは、200°C(392°F)までの温度で設計されるが、前述の理由により、通常の有機材料では充分な性能を獲得することが難しい。そのため、シリコーンエラストマー製のターボチャージャーホースが多く使用されている。
3.シリコーンエラストマー製ターボチャージャーホースの構造
各層はそれぞれ重要な機能を持っている。フッ素ゴムのインナーは、シリコーンゴム層をディーゼルオイル成分などから保護する。また、補強糸は、連続的な圧力振動に対して耐久性を向上する。そして、優れた耐熱性、耐久性、耐油性、伸縮性を持つ、シリコーンエラストマー製のターボチャージャーホースとなる。

図2 ターボチャージャーの仕組み
4.シリコーンエラストマー製ターボチャージャーホースの製造
ターボチャージャーホースの製造方法については、シリコーンエラストマーと補強糸で構成されるトッピングシートを巻いて製造する方法と、ホース形状に押出して製造する方法が知られている。前者は大型のターボチャージャーホースの製造に適している。ここでは、押出しによる製造方法について触れる。
多層構造のターボチャージャーホースを製造するためには、押出しのし易さと寸法安定性が重要であり、適切な装置と条件によって生産性の高い製造を行うことが可能となる。写真2にホースの押出し状況を示す。フッ素ゴムのインナーとシリコーンエラストマー内層の押出し加工である。この後、アラミド繊維の補強糸で巻き付けを行い、シリコーンエラストマー外層の押出し加工を行う。

写真2 ホースの押出し加工
押出し直後のターボチャージャーホースは、写真3に示すようなアルミ製の巻き取り板上で、押出し形状を保持したまま一時保管される。その後、所定の長さに裁断して熱硬化を行う。
硬化は熱によってホースが変形を起こさないように、通常は大型の耐圧金属釜内で、180℃(360°F)までの温度のスチームが用いられる。

写真3 押出し後の硬化前ホース

写真4 ターボチャージャーホースの製造
5. ELASTOSIL® R760/70について
ELASTOSIL® R760/70はワッカー・ケミー社で開発された、ターボチャージャーホース用のシリコーンエラストマー材料である。非常に取扱い易い製品で、特に硬化前で充分な強度を持っているため加工がし易い。寸法安定性能が高く、押出しや硬化前後での寸法変化をほとんど生じない。従って、ホース径の小さいものから大きいものまで、直管から曲管まで、多様なターボチャージャーホースを製造することができる。ELASTOSIL®760/70の代表物性値を以下に示す。
ELASTOSIL® R760/70の物性
項目 | 単位 | 物性値 |
---|---|---|
密度 | g/cm3 | 1.18 |
硬さ(ショアA) | - | 69 |
伸び | % | 490 |
引張強さ | MPa | 11.9 |
引張強さ(クレセント形) | kN/m | 22 |
硬化剤:DS-3/1.5部
硬化条件:一次硬化170℃/10分 二次硬化200℃/4時間
測定条件:JIS K 6249準拠
上記の物性値は代表値であり出荷規格ではありません。
おわりに
シリコーンエラストマー材料はターボチャージャーホースに最も適した材料である。ELASTOSIL® R760/70をはじめとするワッカーのELASTOSIL®(エラストジル)製品は、ターボチャージャーホース用材料として多くの経験と実績を持っており、日本市場でも厳しい要求に対して充分満足頂ける材料であると確信する。
今後、高い信頼性と環境面で優れるシリコーン材料への期待はさらに高まると予想される。旭化成ワッカーシリコーン㈱は、ワッカーグループの一員として、今後もワールドワイドな材料開発を行っていく所存である。
ELASTOSIL ® (エラストジル)は、ワッカー・ケミー社の登録商標です。
参考資料
WWW WACKER WORLD WIDE 1/2002 P17-21
RUBBER WORLD April 2013 P17-19
マークラインズ株式会社 市場・技術レポート 2009.6.9 No.784
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